能力不足のパート、雇用契約を更新しないのはNG?!

雇止めのイメージ 労務トラブル対応
労務担当者
労務担当者

部長、おはようございます!
…うかない表情ですが、また何か問題でも??

部長
部長

おはよう
そうなんだ、先日採用したパートのAさん、
全然仕事を覚えてくれなくてね
昨日の夕方、教育担当のBさんが参って相談に来たんだ…
今月末で契約期間が切れるから、そこで雇止めしたいんだけど
大丈夫かな?!

労務担当者
労務担当者

契約期間があるんだから更新するかどうかは会社の自由だと思いますが…
念のため顧問社労士に確認しますね!!

この記事を書いたのは

大冨伸之助の画像

社会保険労務士/採用定着士:大冨 伸之助

2004年(平成16年)社労士試験合格、翌年登録。
人手不足の時代に、社労士だからできることがあると信じています!!

  • 採用定着
  • 人材育成(人事制度)
  • 福利厚生(退職金)

「社員よし、顧客よし、会社よし」の仕組みをあなたと共に創ります!

パートの雇用契約を更新しないと労務トラブルになる?!

トラブルのイメージ

能力不足に限らず、パートとの雇用契約を更新したくないけど、更新しない場合に労務トラブルにならないかを心配される企業は思いの他多いものです。

この記事を読んでいるあなたも、もしかしたら同じ悩みをお持ちではないでしょうか?!
まず簡単に結論を述べておくと、労務トラブルにつながるポイントがいくつかあります。

でも、大丈夫。
これから、パートの雇用契約を更新しない(これを「雇止め」といいます)ときに気をつけたいポイントをわかりやすく解説しますね。

契約更新型のパートの場合

雇用契約期間にリミットの日(契約期間満了日)がある契約で、かつ自動的に契約期間を更新する約束になっていないパートの場合、契約期間満了日をもって雇用契約は終了します。

例えば雇用契約書で、

  • 契約期間:期間の定めあり(2023年1月1日~2023年12月31日)
  • 契約の更新の有無:更新する場合があり得る

となっているケースですね。

この例でいうと、2023年12月31日が契約期間満了日で、かつ雇用契約を更新するかどうかは未定ですよ、という約束になっています。

一定の期間又は一定の事業の完了に必要な期間までを契約期間とする労働契約を締結していた労働者の労働契約は、他に契約期間満了後、引続き雇用関係が更新されたと認められる事実がない限り、その期間満了とともに終了する。

昭和63年3月14日 基発第150号

上に紹介した通達のように、この雇用契約は、2023年12月31日で終了します。これが原則です。
例外的に、2024年1月以降も働いてもらうために契約を更新した場合は、雇用契約が継続します。

ここでちょっと余談になりますが、契約更新の手続きをしなかったとしても、

  • 契約期間が満了した後もパートが継続して勤務
  • 会社もそれを知りつつ異議を述べなかった

ときは、雇用契約が更新されたと推定されるため契約期間の管理はとても重要です!!

(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。

民法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

原則は契約期間が終われば退職することになるが、様々な例外がある(かなりややこしいので不安があれば早めに社労士に相談するのも手)
原則論だけで雇止めすると、大トラブルに発展する可能性があることに注意!!

契約期間満了による退職は、「解雇」として扱われるのか?!

では契約を更新せず、原則どおり2023年12月31日で雇用契約が終了した場合、これは退職でしょうか?それとも、解雇?
ここでのポイントは、契約期間満了は「退職」になるのであって「解雇」ではないこと。
※原則は…ということに注意!!状況によっては雇止めが認められないことがあります。

能力不足で辞めてもらうんだから解雇では?!と思われるかもしれませんが、常に頭に置いておきたいのは雇用契約を更新しなければ原則として雇用契約が終わる契約を結んでいる点。
仮に「能力不足だから」という理由があったとしても、契約を更新しなければ原則どおり退職になる訳であって、解雇ではありません。

ここを誤解していると、「能力不足で辞めてもらうんだから解雇だよね?!」という誤った認識になり、「本当は辞めて欲しいけど解雇は簡単にできないからな…」と契約を更新、後々労務トラブルに発展する流れになります(この記事の後半で解説)。

契約更新型のパートの場合、契約更新しなければ原則として退職になる
能力不足で契約更新を見送ったとしても、原則として解雇ではないことに注意!

パートから雇止め理由の証明書を求められたら?!

契約更新型のパートを雇止めした際、パートから契約を更新しなかった理由について証明書を求められることがあります。
証明書を求められた場合、遅滞なく交付しなければいけません。

(雇止めの予告)

第二条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。

(雇止めの理由の明示)

第三条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準(平成15年10月22日厚生労働省告示第357号)

この証明書に記載する理由は、契約期間満了以外の理由でなければいけません。

能力不足ならばたとえば「業務を遂行する能力が十分でないと認められるため」といった記載になります。

ちなみに証明書を請求する場合、パートは雇止めに納得していない可能性が高いため、トラブル発生が予想されます。
納得していれば、そんな証明書は要りませんから。

トラブルを予防するためには少なくとも、

  • 労働条件通知で契約更新の条件を定めるときに、「労働者の能力により判断する」という項目を入れておく
  • 日頃から能力不足について指導を行い、指導記録と顛末を保存しておく

ことが重要です。

雇止めが認められる場合でも、トラブル予防のために日頃から気をつけることはある!

契約が自動更新されるパートの場合

雇止めをしようとして労務トラブルになる可能性があるのは、雇用契約を「自動的に更新する」約束をしているケース。

例えば雇用契約書で、

  • 契約期間:期間の定めあり(2023年1月1日~2023年12月31日)
  • 契約の更新の有無:自動的に更新する

となっているケースです。

契約期間満了日で退職になるのは、契約更新しない場合でしたね?
この場合、契約を自動的に更新する訳ですから、基本的に雇用が継続されるという約束になっています。
それなのに「能力不足だし、来年は契約更新しないから!」と言われるとどうなるでしょう!?

約束が違うじゃないか!!(怒)となりますよね。

それに「自動的に契約が更新される=長期間勤めることができる」という期待を守るために、雇止め法理により雇止めが認められない可能性があります(労働契約法第19条第2号)。

雇用契約は自動更新にしないことをオススメします!!

パートの雇用契約を自動更新する内容の契約は、雇止めしようとして労務トラブルになるリスクの元!

労働条件通知の内容に注意しよう

労働条件通知書のイメージ

パートを採用するときや雇用契約を更新するとき、きちんと労働条件通知をしていますか?!

労働条件通知を怠ったり、中身をよく確認せず過去の通知書をちょっとだけいじって使っていると、労務トラブルの原因になりますよ。

曖昧な労働条件通知は労務トラブルの元

  • 労働条件通知の内容が法律に準拠していない
  • 過去から様式を使いまわしていて、実態と合っていない
  • 曖昧な内容になっている
  • 契約更新の手続をしていない
  • 労働条件通知は口頭でしている

こういった労働条件通知は労務トラブルの原因になります。

私は経験上、これらの不適切な労働条件通知をたくさん見てきました。
多くは労務トラブルにならず、なんとなく不適切な状態が続いてきた訳ですが、労使の利害が対立したときに大問題になる危険があるんですね。

本当に多くの中小企業で労務トラブルのリスクを溜め込んだ労働条件通知書を見てきたので、あなたも今一度、きちんとした通知内容になっているかをチェックしてみて下さい。

チェック方法が分からない、大丈夫か心配な場合は、顧問社労士を頼りましょう。

あなたの会社の労働条件通知、労務トラブルのリスクがあるかも!?

労働条件通知する内容は法律で決まっている

パートを採用するときや雇用契約を更新するときに通知する内容は、労働基準法などで決められています(労働基準法第15条・労働基準法施行規則第5条・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第6条・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則第2条)。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項【契約更新型+契約更新の可能性がある場合のみ必要】
  • 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項【※】
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項【※】
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項【※】
  • 安全及び衛生に関する事項【※】
  • 職業訓練に関する事項【※】
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項【※】
  • 表彰及び制裁に関する事項【※】
  • 休職に関する事項【※】
  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

※は、会社に定めがない場合は通知しなくてもいい

契約更新型のパートの場合、「労働契約の期間に関する事項」と「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」の内容は特に注意が必要です。

また、労働条件通知は文書で行いましょう(パートが希望した場合はFAX、メール、SNSでの通知が可能)。

なお、2024年4月から労働条件通知の項目が追加されるので注意しましょう!!

労働条件通知は書面で、必要な内容をもれなくはっきりと記載しよう

契約更新型の場合の記載注意事項

契約更新型のパートの労働条件通知は、以下の点に注意しましょう。
厚生労働省が労働条件通知書の雛形を作成しているので、それを活用してもOK!

更新の有無の明示

明示すべき「更新の有無」の具体的な内容については、例えば下記の例を参考にしましょう。

  • 自動的に更新する(←こちらを選ぶときはトラブル予防に細心の注意が必要)
  • 更新する場合があり得る
  • 契約の更新はしない

判断の基準の明示

「判断の基準」の具体的な内容については、下記の例を参考にしましょう。

  • 契約期間満了時の業務量により判断する
  • 労働者の勤務成績、態度により判断する
  • 労働者の能力により判断する
  • 会社の経営状況により判断する
  • 従事している業務の進捗状況により判断する

雇用契約の更新をしない場合、まだまだ注意すべきことが

caution

パートの雇用契約を更新せず雇止めするときは、まだ注意すべきポイントがあります。

雇止めの予告は確実に行う

  • 3回以上契約更新している
  • 1年以下の雇用契約が反復更新され、通算1年を超えて雇用されている
  • 1年を超える期間の雇用契約を結んでいる

このどれかに該当するパートを雇止めする場合は、少なくとも雇用契約期間が満了する日の30日前までに、雇止めの予告をしなければいけません。

この通知を忘れていて慌てるケースは意外と多いので、注意して下さい!

雇止めはパートの生活にとって重大な出来事。
30日前ではなく、できるだけ早いタイミングで通知した方が得策です。

雇止め通知、忘れるべからず!

長い年数契約更新している場合は雇止めできないことも

長い年数勤務してきたベテランのパートは、雇止めできない可能性があります。

労働契約法第19条で、契約更新型であっても、定年まで勤務する契約の雇用契約と同一視できる場合については雇止めを制限しています。

(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働契約法

私の経験の中では、10年以上勤務してきたパートを雇止めしようとしたケースが複数ありました。
長年勤めてきたパートを能力不足だから…と雇止めするのは非常に難しいということですね。

その他の論点としては、無期転換申込権によって、5年を超えて契約更新してきたパートの雇止めが制限されるというものがあります。

長年契約更新してきたパートを能力不足で雇止めするのは非常に難しい!

悪手は人手不足による「今いなくなると困る!」

人手不足に悩むイメージ

能力不足のパートを雇止めせず勤続させるケースで最も多いと感じるのが、「今人がいなくなると困る!いい人が採れたら辞めてもらおう」というなんとも都合の良い動機があるもの。

この原因は、概ね人手不足なんですね。

私はお互いが不満を持ちながら勤めるのは、両方が不幸になることだと思っています。
ただ、なかなか人が採用できない現状では、キレイ事も言っていられない場合もあるでしょう。

そこで。あなたの会社の採用力を強化しましょう!
あなたの会社でイキイキと働いてくれる人材を採用できれば、悪手を踏んで労務トラブルが発生し、お互い辛い思いをすることもありません。

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能力不足のパート、労務トラブルになる前に社労士に相談しよう

相談するイメージ

いかがでしたか?!

能力不足のパートの契約更新について、労務トラブルになるポイントを解説しました。
正直ポイントが多すぎてよくわからなかった…という方もいらっしゃると思いますが、パートの契約を更新しないこと自体は問題がなくても、他の条件が合わさることで労務トラブルに発展するリスクが発生するイメージを持って頂くと整理がつきやすいかなと思います。

このように気をつけるべきポイントが多いテーマについては、労務トラブルを予防するためにあらかじめ顧問社労士に相談したうえで行動することをオススメします。

社会保険労務士事務所スリーエスプラスでは、能力不足のパートの雇止めにかんする相談にも対応しています。
ご相談はお気軽に、こちらのページからお申し込み下さい。

労務トラブル対策は予防が最善手!トラブルになる前に社労士に相談しよう!

監修:大冨伸之助(社会保険労務士)

広島県社会保険労務士会所属。2004年(平成16年)社労士試験合格、翌年登録。
「社員よし、顧客よし、会社よしの仕組み創り」をテーマに、採用定着支援・労務相談対応・人事制度設計・バックオフィスのIT化支援・確定拠出年金導入支援を行う。
約10年の社労士実務経験以外に約8年の会計実務経験があり、経営的視点から中小企業の経営者の決断を支える。
”smile” ”speed” “security”を仕事の基本スタンスとし、頭文字を取り事務所名を「社会保険労務士事務所スリーエスプラス」とした。
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