- はじめに:税理士事務所の成長とパート採用の第一歩
- 1. パート職員採用の全体像:最初に押さえるべき5つのステップ
- 2. 労働条件通知書:法律で定められた義務を正しく理解する
- 3. 労働保険(雇用保険・労災保険)の加入手続き:個人・法人を問わず必要な義務
- 4. 社会保険(健康保険・厚生年金保険):個人事業か法人かで大きく異なる重要ポイント
- 5. 就業規則の作成・届出義務:常時10人以上が境界線
- 6. 労働者名簿と賃金台帳:法定三帳簿の整備義務
- 7. その他の重要な手続きと注意点
- 8. 個人事業と法人の手続きの違い:一覧表で確認
- 9. よくある質問と落とし穴
- 10. 社労士のサポートがもたらす価値:Win-Winのパートナーシップ
- まとめ:主体的な一歩が、信頼される事務所を作る
はじめに:税理士事務所の成長とパート採用の第一歩
税理士事務所を開業し、事業が軌道に乗り始めると、必ず訪れるのが「人を雇う」という決断です。
特に繁忙期の業務量増加や、より専門性の高いサービスを提供するために、初めてパート職員の採用を検討される税理士の先生は多くいらっしゃいます。
しかし、税務の専門家である税理士の先生方でも、労働法規についてはあまり詳しくないことが多いのではないでしょうか。
「何から手をつければいいのか」「どんな書類が必要なのか」「届出を忘れたらどうなるのか」――こうした不安を抱えながら、手探りで進めておられる方も少なくありません。
労働関係の法律は、思いの外複雑で、しかも従業員の生活と権利に直結する重要な分野です。適切な手続きを踏まないと、後々トラブルに発展したり、行政指導を受けたりするリスクがあります。
この記事では、税理士事務所が初めてパート職員を採用する際に必要な手続きを、個人事業と法人(税理士法人)の違いに注目しながら、法的根拠とともに、わかりやすく、体系的に解説いたします。
採用から定着までの全体像を把握し、従業員との信頼関係を築きながら、事務所の持続的な成長を実現していただくことを目的に置きました。
1. パート職員採用の全体像:最初に押さえるべき5つのステップ
パート職員を採用する際の手続きは、大きく分けて以下の5つのステップで構成されます。全体の流れを理解することで、「今、自分が何をすべきか」が明確になります。
ステップ1:労働条件の明示と雇用契約の締結
ステップ2:労働保険(雇用保険・労災保険)の加入判断と手続き
ステップ3:社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入判断と手続き ※個人事業か法人かで大きく異なる
ステップ4:給与計算の準備と源泉徴収の設定
ステップ5:就業規則の作成・届出(従業員数による)
ステップ6:労働者名簿等の法定帳簿の整備
これらは単なる「やるべきこと」のリストではありません。
それぞれに明確な法的根拠があり、従業員の権利を守り、事業主の責任を果たすための重要なプロセスです。
順を追って詳しく見ていきましょう。
2. 労働条件通知書:法律で定められた義務を正しく理解する
労働条件の明示は法律上の義務です
パート職員を採用する際、まず必ず行わなければならないのが労働条件の明示です。これは労働基準法第15条第1項で明確に定められた使用者の義務であり、賃金及び労働時間に関する事項などについては書面の交付が原則となっています。
【法的根拠】労働基準法第15条 「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」
さらに、労働基準法施行規則第5条により、以下の項目については原則として書面で明示する必要があります:
【絶対的明示事項】
- 労働契約の期間に関する事項
- 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
パート職員の場合は、さらに「パートタイム・有期雇用労働法」第6条により、以下の事項も明示が義務付けられています:
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口
雇用契約書との違いは何か
「労働条件通知書」は使用者から従業員への一方的な通知であるのに対し、「雇用契約書」は双方の合意を示す契約書です。実務上は、両方の要素を兼ね備えた「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成することが一般的です。
これにより、法律上の義務を果たしつつ、双方が合意した証拠も残せるという、Win-Winの関係を築く第一歩となります。
作成時の実務的なポイント
税理士事務所でパート職員を採用する場合、特に以下の点に注意が必要です:
試用期間について 試用期間を設ける場合は、その期間と条件を明記します。ただし、試用期間中であっても労働基準法の適用はありますので、「試用期間中は最低賃金以下でもよい」といった誤解は禁物です。
業務内容の特定 税理士事務所では、記帳代行、申告書作成補助、来客対応など、業務が多岐にわたります。「従事すべき業務」として、具体的にどの業務を担当するのかを明確にしておくことで、後々の認識のズレを防ぐことができます。
秘密保持義務 税理士事務所では、顧客の機密情報を扱います。労働条件通知書とは別に、秘密保持に関する誓約書を取り交わすことも検討すべきでしょう。
3. 労働保険(雇用保険・労災保険)の加入手続き:個人・法人を問わず必要な義務
労働保険については、個人事業であっても法人であっても、手続きに違いはありません。
パート職員を1人でも雇用すれば、少なくとも労災保険の手続が必要になります。
労災保険:すべての従業員が対象
【労災保険】 労災保険は、労働時間の長短に関わらず、すべての従業員が対象となります。
【法的根拠】労働者災害補償保険法第3条 この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。
つまり、週1日、1日1時間のパートであっても、労災保険の対象です。保険料は全額事業主負担で、従業員からの徴収はありません。
雇用保険:加入要件を満たす場合に義務発生
【雇用保険】 雇用保険は、以下の要件を満たす場合に加入義務が生じます(雇用保険法第6条):
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
税理士事務所で、例えば週3日、1日6時間(週18時間)のパートを採用した場合は、雇用保険の加入義務はありません。しかし、週4日、1日6時間(週24時間)であれば加入義務が生じます。
初めて従業員を雇う場合の労働保険手続き
初めて従業員を雇用する場合、事業主として労働保険の「保険関係成立届」を提出する必要があります。これは個人事業、法人を問わず必要な手続きです。
【手続きの流れ】
- 労働保険関係成立届:従業員を雇用した日の翌日から10日以内に労働基準監督署に提出
- 概算保険料申告書:成立届提出後、50日以内に労働基準監督署または金融機関で保険料を納付
- 雇用保険適用事業所設置届:雇用保険の適用対象者を雇用した場合、雇用日の翌日から10日以内にハローワークに提出
- 雇用保険被保険者資格取得届:雇用保険加入対象者について、雇用日の翌月10日までにハローワークに提出(ただし初めて従業員を雇用したときは、適用事業所設置届と同時に提出)
4. 社会保険(健康保険・厚生年金保険):個人事業か法人かで大きく異なる重要ポイント
社会保険の適用については、個人事業の税理士事務所か、税理士法人かによって、必要な手続きが大きく異なります。これは多くの税理士の先生が見落としやすいポイントですので、特に注意が必要です。
法人の場合:強制適用
税理士法人などの法人事業所は、従業員数に関わらず強制適用事業所となります。
【法的根拠】健康保険法第3条第3項 「この法律において『適用事業所』とは、次の各号のいずれかに該当する事業所をいう。一 法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの」
つまり、税理士法人を設立し社員が報酬を受ける場合、社会保険に加入しなければなりません。
個人事業の場合:常時5人未満なら強制適用なし
一方、個人事業として税理士事務所を営んでいる場合は、状況が異なります。
2022年10月より、個人事業所は「常時5人以上の従業員を使用する事業所」に該当する場合は社会保険の強制適用事業所となります。
なお、「常時5人以上の従業員を使用する事業所」に該当しない場合でも、任意適用の手続きを行うことで社会保険に加入することは可能です。
社会保険の加入要件(加入対象となる従業員の範囲)
社会保険の強制適用事業所(法人または個人事業で常時5人以上)において、以下の要件を満たす従業員は社会保険に加入する義務があります:
【原則的な加入要件】 以下のいずれかに該当する場合、社会保険の加入義務があります:
- 正社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3以上働く場合
- 以下のすべてに該当する短時間労働者(従業員数51人以上の企業の場合):
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生でないこと
具体的なケース別の対応
【ケース1】税理士法人で、週3日・1日6時間(週18時間)のパートを採用
正社員が週40時間・週5日勤務の場合:
- 4分の3基準:30時間・週4日未満なので該当せず
- 結論:社会保険の加入義務なし(労働保険のみ加入)
【ケース2】税理士法人で、週4日・1日8時間(週32時間)のパートを採用
正社員が週40時間・週5日勤務の場合:
- 4分の3基準:30時間以上・週4日以上なので該当
- 結論:社会保険の加入義務あり
【ケース3】個人事業の税理士事務所(従業員4名)で、週5日・1日8時間のパートを採用
- 個人事業で従業員5人未満のため、強制適用事業所ではない
- 結論:社会保険の加入義務なし(任意適用は可能)
【ケース4】個人事業の税理士事務所だが、任意適用を受けている場合
- 任意適用の承認を受けている場合、法人と同様に扱われる
- 4分の3基準を満たすパート職員は社会保険に加入義務あり
社会保険加入手続きの実務
社会保険に加入する場合は、雇用日から5日以内に、管轄の年金事務所に以下の書類を提出します:
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者届(扶養家族がいる場合)
初めて社会保険の適用事業所となる場合(法人設立時など)は、事前に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出している必要があります。
個人事業の税理士事務所で任意適用を検討する場合
個人事業の税理士事務所でも、従業員の福利厚生を充実させるため、あるいは優秀な人材を確保するために、任意適用を検討することは有益です。
任意適用を受けるには、従業員の2分の1以上の同意を得て、「健康保険・厚生年金保険任意適用申請書」を年金事務所に提出します。承認されると、法人と同様に社会保険の適用事業所となります。
5. 就業規則の作成・届出義務:常時10人以上が境界線
就業規則とは何か
就業規則とは、労働時間、賃金、休暇などの労働条件や、職場内の規律について定めた職場のルールブックです。
労働基準法第89条により、常時10人以上の従業員を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります。これは個人事業、法人を問いません。
【法的根拠】労働基準法第89条 「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」
「常時10人以上」の判断基準
「常時10人以上」とは、常態として10人以上の従業員を使用している状態を指します。正社員だけでなく、パート、アルバイトも含めてカウントします。
税理士事務所を開業し、初めてパート1名を採用した段階では、通常は10人未満ですので、就業規則の作成義務はありません。
しかし、事務所の秩序を維持するためには、小規模であっても就業規則は不可欠です(例えば懲戒処分は就業規則の定めなしには行えません)。
就業規則作成のメリット
法的義務がない段階でも、就業規則を作成することには大きなメリットがあります:
- 職場のルールが明確になる:曖昧さがなくなり、トラブル防止につながります
- 従業員への説明がしやすい:「規則でこう決まっています」と根拠を示せます
- 事業主の権限も明確化される:懲戒処分等を行う際の根拠となります
- 労務管理の質が向上する:体系的にルールを整理することで、管理の抜け漏れが減ります
就業規則の必須記載事項
就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)は、労働基準法第89条に列挙されています:
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、締切り及び支払の時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
また、制度を設ける場合には記載が必要な事項(相対的必要記載事項)として、退職手当、賞与、安全衛生、災害補償、表彰・制裁などがあります。
従業員代表の意見聴取
就業規則を作成・変更する際には、労働者の過半数で組織する労働組合、またはそれがない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴く必要があります(労働基準法第90条)。
ただし、これは「同意」を得ることまでは求められていません。意見を聴いた上で、その意見書を添付して労働基準監督署に届け出ます。
6. 労働者名簿と賃金台帳:法定三帳簿の整備義務
労働基準法では、使用者が必ず備え付けなければならない帳簿として、「法定三帳簿」が定められています。これは個人事業、法人を問わず義務です。
法定三帳簿とは
- 労働者名簿(労働基準法第107条)
- 賃金台帳(労働基準法第108条)
- 出勤簿(労働基準法第109条で保存義務が定められている)
これらは、従業員を1人でも雇用した時点で作成・保存義務が生じます。パート職員であっても例外ではありません。
保存期間
これらの帳簿は、最後の記載日または従業員の退職日から5年間(当分の間は3年間)保存する義務があります(労働基準法第109条)。
7. その他の重要な手続きと注意点
最低賃金の確認
都道府県ごとに定められている最低賃金を下回る賃金は、労働基準法第28条、最低賃金法第4条により無効となり、最低賃金と同額と定められたものとみなされます。
税理士事務所の所在地の最低賃金を確認し、時給制のパート職員の場合は時給額が最低賃金以上であることを確認してください。
有給休暇の付与
労働基準法第39条により、雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員には、年次有給休暇を付与しなければなりません。
パート職員の場合、所定労働日数が週4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の場合は、「比例付与」の対象となり、所定労働日数に応じた日数の有給休暇を付与します。
例えば、週3日勤務のパート職員の場合、6か月継続勤務後には5日の有給休暇が発生します。
労働条件の変更
採用後、労働時間や賃金などの労働条件を変更する場合は、従業員との合意が必要です。一方的な不利益変更は、労働契約法第9条により原則として認められません。
変更する場合は、改めて書面で確認を取り、双方が署名・捺印した変更契約書を作成することが望ましいでしょう。
ハラスメント防止措置
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法により、職場におけるハラスメント防止措置を講じることが義務付けられています。これは個人事業、法人を問いません。
従業員が1名であっても、事業主として以下の対応が必要です:
- ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、周知する
- 相談窓口を設置する(開業間もない小規模事務所では、事業主自身が窓口となることも可)
- ハラスメントが生じた場合の迅速・適切な対応
36協定の締結と届出
労働基準法第36条により、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させる場合、または法定休日に労働させる場合は、労働者の過半数代表者と書面による協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
パート職員であっても、残業が発生する可能性がある場合は、36協定の締結が必要です。税理士事務所では、確定申告期など繁忙期に残業が発生しやすいため、事前に36協定を締結しておくことが重要です。
8. 個人事業と法人の手続きの違い:一覧表で確認
これまで解説してきた内容を、個人事業の税理士事務所と税理士法人で比較した一覧表でまとめます。
| 手続き項目 | 個人事業の税理士事務所 | 税理士法人 |
|---|---|---|
| 労働条件通知書の交付 | 必要 | 必要 |
| 労災保険の加入 | 必要(1人でも) | 必要(1人でも) |
| 雇用保険の加入 | 要件を満たせば必要(週20時間以上等) | 要件を満たせば必要(週20時間以上等) |
| 社会保険の加入 | 従業員5人未満の場合は任意 (任意適用を受けることは可能) | 必要 |
| 給与支払事務所等の開設届 | 必要 | 必要 |
| 源泉徴収 | 必要 | 必要 |
| 就業規則の作成・届出 | 常時10人以上で義務 | 常時10人以上で義務 |
| 労働者名簿等の法定帳簿 | 必要 | 必要 |
【最大の違い】 社会保険の適用が、個人事業と法人で大きく異なります。税理士法人の場合、原則として社会保険への加入が義務となりますが、個人事業の税理士事務所(従業員5人未満)では任意です。
この違いは、採用コスト(社会保険料の事業主負担)や、求人時の訴求力(社会保険完備と記載できるか)に影響します。
9. よくある質問と落とし穴
Q1: 個人事業の税理士事務所で、パート1名を雇う場合、社会保険は必要ですか?
A: 必要ありません(任意です)。 個人事業の税理士事務所は、常時使用する従業員が5人未満であれば社会保険の強制適用事業所にはなりません。ただし、任意適用の手続きを行うことで加入することは可能です。福利厚生の充実や人材確保の観点から、任意適用を検討する価値はあります。
Q2: 税理士法人に変更したら、社会保険の手続きはどうなりますか?
A: 法人成立と同時に強制適用事業所となります。 個人事業から税理士法人に組織変更した場合、法人成立日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を年金事務所に提出し、既存の従業員についても加入要件を満たしていれば「資格取得届」を提出する必要があります。
Q3: 「試用期間中は社会保険に加入しなくてもよい」は本当?
A: いいえ、誤りです。 試用期間中であっても、社会保険の加入要件を満たしていれば、加入義務があります(強制適用事業所の場合)。試用期間の有無は社会保険加入の判断には関係ありません。
Q4: パートだから有給休暇はなくてもよい?
A: いいえ、誤りです。 パート職員であっても、要件を満たせば有給休暇を付与する義務があります。「パートだから有給なし」という取り決めは労働基準法違反となります。
Q5: 家族や親族を雇う場合も同じ手続きが必要?
A: 原則として必要ですが、一部例外があります。 配偶者や子など、生計を一にする親族のみで事業を行っている場合は、労働基準法上の「労働者」とみなされないケースがあります。しかし、一般従業員と同様の働き方をしている場合は、親族であっても労働者として扱い、同様の手続きが必要です。
ただし、個人事業で生計を一にする同居親族のみを使用する場合は、労働保険の加入義務はありません(労働保険の適用除外)。
Q6: 雇用契約書がないまま働き始めてしまったが、どうすればよい?
A: 速やかに労働条件通知書を交付してください。 既に就労が開始している場合でも、遅れてでも必ず書面で労働条件を明示する必要があります。口頭での約束があった場合は、それを書面化して双方で確認し、署名・捺印を行いましょう。
10. 社労士のサポートがもたらす価値:Win-Winのパートナーシップ
ここまで、税理士事務所が初めてパート職員を採用する際の手続きについて、個人事業と法人の違いに注目しながら、法的根拠とともに解説してきました。おそらく、「こんなに複雑なのか」「自分で正確にできるだろうか」と感じられたかもしれません。
特に、社会保険の適用については、個人事業か法人かで手続きが大きく異なるため、判断に迷われることも多いでしょう。
税理士の先生方は、税務の専門家として日々、依頼者の事業を支えておられます。しかし、労務管理については、多くの方が「初めて」の経験です。
専門性を活かし合う
税理士として、税務の専門性を活かして顧客をサポートするように、労務管理の分野では社会保険労務士が専門家です。
互いの専門性を活かし合うことが、プロフェッショナルとしての在り方だと考えます。
社労士は、以下のような形で税理士事務所をサポートできます:
1. 正確な手続きの実行
労働保険・社会保険の手続きは、提出書類が多く、期限も厳格です。
特に、個人事業か法人かで社会保険の取扱いが異なるため、判断を誤ると後々問題になります。社労士に依頼することで、確実に、期限内に、適切な手続きを完了できます。
2. 個人事業と法人の違いを踏まえたアドバイス
「個人事業のままでよいのか、法人化すべきか」という判断には、税務面だけでなく、社会保険料の負担という労務面の検討も必要です。社労士は、税理士の先生と連携しながら、総合的な視点でアドバイスできます。
3. リスクの予防
労務管理のミスは、労働基準監督署からの是正勧告や、従業員とのトラブルにつながります。
社労士の専門的なアドバイスにより、こうしたリスクを未然に防ぐことができます。
4. 事業成長への伴走
今回はパート1名の採用かもしれませんが、事業が成長すれば、正社員の採用、就業規則の作成、人事評価制度の導入など、さらに高度な労務管理が必要になります。
また、法人への移行時や従業員増員時には、社会保険の適用関係も変わります。社労士は、事業の成長段階に応じて、適切なサポートを提供します。
5. 本業への集中
労務管理の手続きや調査に時間を取られることなく、税理士としての本業――顧客へのサービス提供――に集中できます。
社労士との顧問契約という選択肢
税理士の先生方の多くが、顧問契約という形で顧客と長期的な関係を築いているように、社労士も顧問契約によって、継続的なサポートを提供しています。
顧問契約のメリットは、単発の手続き代行だけでなく、日常的な労務相談、法改正への対応、助成金の提案など、総合的なサポートが受けられることです。
税理士と社労士がチームとなることで、税務と労務の両面から、事務所の健全な成長をサポートできます。
まとめ:主体的な一歩が、信頼される事務所を作る
初めてパート職員を採用するという決断は、税理士事務所の成長にとって大きな一歩です。同時に、「使用者」として法的責任を負う立場になるという、新たなステージでもあります。
この記事でご紹介した手続きは、一見すると煩雑に思えるかもしれません。しかし、それぞれに明確な法的根拠があり、従業員の権利を守り、労使双方にとって健全な関係を築くための仕組みです。
特に重要なポイントは、個人事業の税理士事務所と税理士法人では、社会保険の適用が大きく異なるということです。この違いを正しく理解し、適切に対応することが、コンプライアンスの観点からも、経営戦略の観点からも重要です。
最終的に目指すのは、従業員が安心して働ける環境を整え、信頼関係を構築し、事務所全体として成長していくことです。そのためには、適切な手続きの実行が不可欠です。
また、労務管理は、単なる義務の履行ではありません。従業員にとっては安心と保護、事業主にとってはリスク回避と事業の安定という、双方にメリットがある取り組みです。
もし、手続きについて不安がある、個人事業と法人の違いについて相談したい、専門家のサポートを受けたいとお考えであれば、お気軽にご相談ください。税理士と社労士がパートナーとして協力することで、貴事務所の持続的な成長をサポートいたします。




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